東京高等裁判所 昭和53年(く)356号 決定 1978年9月16日
少年 D・Y(昭三四・一・二四生)
主文
原決定を取消す。
本件を東京家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、右申立人三名共同作成名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。
所論は、要するに、原裁判所が少年に対して言渡した中等少年院送致決定は著しく重く、不当な処分である、というのである。
そこで、所論に徴し、検討してみるのに、記録によれば本件は、友人A、Bに誘われて、実弟D・Tとともに暴走族「○○○」の集会に参加した少年が、右三名と共同して、C子(当時一五歳)を甘言をもつて自動車内に誘い込んだうえ同女を輪姦したという事案であり、その犯行の態様、罪質、少年の知能、性格、生育歴、非行及び保護処分歴等に徴すると、少年には主体的判断力が欠如していると認めざるをえない。また保護者のこれまでの少年に対する放任の態度が少年を右のような人間に成長させた一因となつていることも特に考慮しなければならない点の一つといわなければならない。
そして、このような少年の現状ならびに少年の両親の保護能力からすれば少年を更生させるため施設に収用することも全く考えられないわけではない。
しかしながら、事件非行については、少年は、首謀者ではなく、いわば前記A、Bに随行したものであること、被害者も、夜を徹して右暴走族の集会に参加し行動していたもので落度がないとは言えないこと、被害者が警察当局にその被害事実を訴えたのは、本件非行から八か月余を経過した昭和五三年六月一五日に至つてからであり、しかも本件は警察当局が女性暴走族「×××」の実体の解明のため同グループ員D子を取調べた結果、発覚したものであること、そして、その間、少年には道路交通法違反の外特段の非行はなかつたこと、少年は、本件につき、逮捕、勾留、観護措置と身柄を拘束されたことを契機に、本件の重大性ならびに、自己の非を悟り、自省の念を強めており、また、前記暴走族「○○○」からも脱退して、更生することを誓つていること他方、少年の両親も少年をしてかかる非行を犯させたことにつき責任の大きさを悟り、被害者に対して謝罪の念を強めつつ、反面少年に対しても、その更生のため保護関係機関と協力しつつ、全力をつくすことを約束していること、本件につき共犯者の成人であるBは、起訴猶予に、事件首謀者であるAは、少年院(交通短期)仮退院中であることから不処分の決定がなされており、右両名に対する処分との均衡を図ることの必要性も無視できないことを総合すると、少年に対しては今回に限り社会内において専門家の指導のもとに社会人として必要な基本的生活態度を体得させつつ更生の道を歩ませるのが相当である。従つて、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は結局著しく重いといわなければならない。論旨は理由がある。
以上によれば、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項により原決定を取消し、事件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 石崎四郎 裁判官 森眞樹 中野久利)